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こどもはかなしみをしらず
子供は悲しみを知らず
小川 未明
「社会 創刊号」1946(昭和21)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,134 字 · 7 页
」
これをきいて、地主は、なんとも返答ができなかった。そして、おしょうさんの今日きたわけが、いよいよはっきりのみこめたけれど、ただ寄付はしたくなかったのでした。そして、半分は、いつわりなく、心のうちをいって、弁解するように、
「せがれが、もし生きていますなら、どこか山の中で、へびや、とかげを食っていることでしょう。そう考えると、だれも彼も、いっしょに苦しむがいい、と思いまして、たとえ子供であろうが、特別に同情する気になれません。」といいました。
「いや、正直なお話です。あなたばかりでなく、みんなが、悪い夢を見ていますのう。」と、おしょうさんは答えました。
「悪い夢とおっしゃいますか。」
「さよう、悪い夢にちがいない。すべて夢からさめるのを悟りといいますのう。別に、美しい、なごやかな、真の人間世界があるはずだが。」と、おしょうさんは、いいました。
「どうしたら、その世界を知ることができますか?」と、地主は、いいました。
「それを、いま私がいってもわかりますまい。正しい心をもちながら、忘れたのであれば、かならず悟る日がありますじゃ。」
「つい、長居して。」と、おしょうさんは、あいさつして、縁側へ出てから、庭のさるすべりを、ほめて帰りました。