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くじゃくのきについて
孔雀の樹に就いて
国枝 史郎
「新青年 増大号」1926(大正15)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,259 字 · 3 页
最近読んだ内外の作で、最も感銘の深かったのは、小酒井不木氏翻訳のチェスタアトンの「孔雀の樹」です。探偵小説としての筋立てから云っても、(非常に新鮮では無いにしても)一流の作に属す可きもので、最後の殿様ヴェーンの出現や、医師ブラウンが真犯人で無いなど――いや一切この事件に犯罪が無かったということなどは、最後のカーテンの下ろされるまでどんな読者でも考えられなかったでしょう。謂う所の龕燈返しが用いられて居るが、龕燈返しのための龕燈返しで無くて龕燈返しをすることに由って、人生的乃至社会的の意味を裏付け、強調した点などは、以て範とすべきでしょう。現われて来る人間が、みんな哲学者だという事なども、チェスタアトンの作らしく、甚だ愉快という可きでしょう。つまり作者は登場人物をして作者自身の思想なるものを、代弁させているようです。もう一つ此作での特色は、その人間の現わし方が、対象的であるという事です。地主に対する小作人、詩人に対する批評家、迷信者に対する科学者等、実に巧に出来て居ります。往々此種の作品は「拵え物」としての欠点を暴露するものでありますが、是には夫れが見られません。