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あんごのしんにほんちり

安吾の新日本地理

坂口 安吾

04 飛鳥の幻――吉野・大和の巻――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,973 字 · 32 页

青空文庫

藤原一門自体が氏の長者だの関白をめぐって父子兄弟の絶え間なき争いでもあった。藤原氏にも三種の神器のようなものがあるのだね。これを、長者の印、朱器、台盤とやら云うね。朱器台盤というのは食事の道具らしいや。年に一度の大宴会に大臣諸公や代表的日本紳士諸公にこの朱器台盤とやらでもてなす。これが藤原長者の貫禄なんだそうだ。そこで朱器台盤とやらがないと氏の長者になれないから、これをめぐって争奪戦をやらかす。平安朝はテンヤワンヤさ。この時代に於ける儀式や虚器の人格化というものはまるで実生活をもつ生き物めいた妖怪であった。私は戦争中バクダンに追いまくられている以外の時間に甚しく退屈に苦しんだので、この時とばかりに「台記」だの「玉葉」というものをノートをとりながら読みはじめた。この種の本はいかに退屈している時でも連続的に読めないな。こういうものを読むことのできる歴史家という存在は実に超人だとその時シミジミ思った。「台記」も「玉葉」も、つまり朱器台盤とやらをめぐって争奪の実戦に経験ある関白殿の日記なのである。第三次世界戦争がはじまったら、また台記や玉葉をよむかね。しかし私の生存中に百ぺん世界戦争があっても、とてもこの本を読み終る見込みはないね。