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あんごのしんにほんちり

安吾の新日本地理

坂口 安吾

04 飛鳥の幻――吉野・大和の巻――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,973 字 · 32 页

青空文庫

向うの車がサンキューと云ってすれちがうかと思いのほか、あやしくも心にくし、向うも後退して通路をつくり、私たちの通過を待つではないか! なんたる礼節! 古代日本はかく在りしか。見上げたる神々の子孫よ。と思いつつ敬々しくかの車を通過すれば、この車に乗りたるオノコらは手に手にメガホンをもち、これなん選挙の自動車にてありけり。二日の後が投票日さ。三日目からは決して人に道を譲らない自動車でした。

家並を外れると、なるほど山の辺にかかって北上し、右手山際に、景行、崇神両帝の陵をすぎ、石上神宮があって、やがて現代教祖のお筆先賑う丹波市となるのである。

いわば吉野も、この古の道の支線の一ツだ。伝に曰く、役の行者がひらいた道さ。そして今も年々歳々山伏の通る道である。この地帯は山伏の聖地である。吉野には蔵王堂があって、この聖地の本堂だ。そして金峰山のテッペンから大台ヶ原全体にかけて、すなわち山伏の根本道場だね。蔵王堂は木造建築としては東大寺の次ぐらいに大きいのだそうだが、実にヌッと突ッ立ってる様が山伏的にブザマで、美的じゃないね。この本堂の前に人だかりがあって、本堂のキザハシの上で洋装の女の子が炭坑節を唄っていたよ。