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あんごむしゃしゅぎょう

安吾武者修業

坂口 安吾

馬庭念流訪問記

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,724 字 · 22 页

青空文庫

それを使うのは善良温和な百姓なのだ。頭ぬけた使い手には扱われていなくとも、どんな剣の名人もこの村で道場破りはできないのだ。

村の農民によってまもられ伝えられてきた剣法。日本の講談の中で異彩を放っているばかりでなく、牧歌的な詩趣あふれ、殺伐な豪傑の中でユーモラスな存在ですらある。

私は馬庭という里は架空の地名ではなくとも、百姓剣法馬庭念流はいわば講談作者のノスタルジイの一ツで、立川文庫の夢の村にすぎないのだと思っていた。まさに少年時代の私にとっても愛すべく、また、なつかしい夢の村であった。そして、夢の中でしか在りえない村だと思っていたのだ。

たまたま私は一昨年から上州(群馬県)桐生に住むようになり、郷土史を読むうちに、馬庭が実在の地名であるばかりでなく、馬庭念流が今も尚レンメンと伝えられ、家元樋口家も、その道場も、そして剣を使う農民たちも、昔と同じように今もそうであることを知って茫然としたのである。

今の呼び方では群馬県多野郡入野村字馬庭。字である。戸数は二百戸ほど。高崎から上信電鉄でちょッとのところである。

上州には今から千何百年前の石碑が三ツある。