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あんじゅうこん

安重根

谷 譲次

――十四の場面――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页

青空文庫

親分肌の学者で、跛者だ。すっかり露化していて、ルバシカに、室内でも山高帽をかぶっている。

李春華――李剛の若い妻。

柳麗玉――ミッション上りの同志で安重根の情婦。ロシアの売春婦のような鄙びた洋装。二十七歳ぐらい。

卓連俊――老人の売卜乞食。

朴鳳錫――大東共報記者、青年独立党員。

鄭吉炳――安重根の同志。独立運動の遊説家。

クラシノフ――亡命中の露西亜革命党員。李剛の食客。他同志一、二。

李春華は一隅で、石油の古罐に炭火をおこして粥を煮て、葱の皮をむいている。傍で卓連俊がその手伝いをしながら、生葱を食べている。クラシノフは、中央の机に腰かけて露語新聞を読み、鄭吉炳は箒でそこらを掃き、その間を李剛は、何か呟きながら探し物の態で、部屋じゅう跛足を引いて歩き廻っている。隅の卓子で、柳麗玉が手紙を書いているのを、朴鳳錫は印刷機を掃除しながら、ちらちらとその手許を覗く。

柳麗玉 (手で、書いている紙片を覆って)お止しなさいよ、覗くの――人の書いてるものや読んでるものを覗くのは、失礼よ。

朴鳳錫 おや! まるで公爵家の家庭教師の言い草だ。ははあ、恋愛は昔から多くの惜しい同志を反動家にして来た。