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あんじゅうこん

安重根

谷 譲次

――十四の場面――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页

青空文庫

柳麗玉 (わざとらしく)ええ、そうよ。よく解ってますわ。そして、独立党煙秋支部長の安重根――特派活動隊参謀中将の安重根が、すぐ世界の安重根、歴史の安重根になるのね。(感激に耐えかねて)ああ、あたし――あたし、ほんとに幸福だわ。

安重根は聞いていないように、手早く卓上の行李をあけて、つぎつぎに古着類を取り出す。茶の背広服、同じ色のルバシカ、円い運動帽子など。その動作は急に別人のように活気づいている。

安重根 (陽気に独語)ハルビンは寒いからな。

最後に露人の羊皮外套を取り出す。

安重根 これだ。

柳麗玉がいそいそと外套を着せる。引きずるように長い。運動帽子をかぶる。考え込んで室内を歩きはじめる。柳麗玉は信頼と誇りの面持ちで、うっとりと安重根を見上げている。

8

元の隣室、集会所。

第六場の終りのままで、禹徳淳が、電燈から取った赤い紙片を読みつづけている。

禹徳淳 (大声に)

かの奸悪なる老賊め

われわれ民族二千万人

滅種の後に三千里の錦綾江山を

無声の裡に奪わんと

青年らは凝然と聞き入っている。

青年J (突然叫ぶ)何でもいいや。やっつけりゃあいいんじゃねえか。(禹徳淳へ)なあ、小父さん!