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たぬきじる
完本 たぬき汁
佐藤 垢石
佐藤垢石『完本 たぬき汁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:たぬき汁、『七面鳥』と『忘れ褌』、海豚と河豚、うむどん、縁談、議会見物、採峰徘菌愚、酒渇記、酒徒漂泊、すっぽん、増上寺物語、淡紫裳、探巣遅日、盗難、濁酒を恋う、にらみ鯛 、春宵因縁談、姫柚子の讃、美音会、みやこ鳥。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 页
本名は白雪と申候。至って和らかにて宜敷聯句馬生に対酌――などとある。これは昔、酒樽を灘から船で積み出し、遠州灘や相模灘で富士の姿をながめながら江戸へ着き、その積んで行った樽のうち二、三本をさらに灘へ積み返し、上方の酒仙たちの愛用に供したから、富士見酒と言ったものであろう。
柳多留四十二篇に、
男山舟で見逢のさくや姫
という川柳があるが、これは長唄の春昔由縁英のうちの白酒売りの文句に『お腰の物は船宿の戸棚の内に霧酒、笹の一夜を呉竹の、くねには癖の男山』とある銘酒。この男山と富士の女神かぐや姫が舟で見逢いをする、としゃれて詠んだのかも知れない。
だが、いま東京では男山などという灘の酒は見当たらない。それは、とにかくとして長い船路を幾日かけて江戸へきて、さらに上方へ持ち返された酒であるから、充分に揉みに揉まれ、酒の醇和されていたことだろう。そんなことを思いながら、手酌でちびりちびりやっていると、帆に風を孕んだ船が酒樽を積んで波の上を上って行くさまが、ひとりでに眼に浮かぶ。
濁酒と言えば、日本派の全盛であった頃、
新酒店財布鳴らして入りにけり
というような俳句があったと記憶しているが、このごろでは世の中があまり文化的になってしまって、この句の趣を味わえる風景に接しないのである。