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ほうえいふんか

宝永噴火

岡本 かの子

「文学界」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页

青空文庫

「慧鶴!」「慧鶴!」自分の名を呼んで富士から自分を引離したのであるが、いつも白雪中に隠れている富士の秀麗に対しては決して嫌いな気はしなかった。それでこのときを機会に聖者は白隠と号し始めたという説がある。

邪道であるか何だか知らないが、私には心牽かるる心覚なのだから仕方がない。けれども、そこまで行くには、これほどの修業をしなくてはならないのか。それならば素人の私にはとても出来ない。それともあの噴火のような異常な恐怖に出会って過ぎた後なら、思わずその三昧とかは得られるのか。だが私はこどもの時分から神経は丈夫で、あの忘我的な脅迫観念とか、幻覚とかはついぞ縁の無い性分だ。私はこの聖者の伝記を調べて記し終り、試しに二度目に白隠の逸話集のあの個所を読んだときは、もう何の神秘感も起らなくなっていた。結局、私のような女には達せられぬ望みだろうか。

×  ×  ×  ×  ×  ×  ×  ×  ×

×  ×  ×  ×  ×  ×  ×  ×  ×

S夫人の白隠伝は、こののんきな嗟嘆の声で終っている。私はこの草稿を読んでから、あまりに健康で常識円満な女性は却って奇蹟とか神秘にあこがれる一面があるものだと教えられて、あらためて、S夫人を見返してみた。