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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

多年の間森彦の胸にあったことは、一時に口を衝いて出て来た。この叔父は「兄さん」という言葉を用いていなかった。「お前が」とか、「お前は」とか言った。そして、声を低くして、父の顔色が変るほど今日までの行為を責めた。

お俊はどう成って行くことかと思った。堪忍強い父は黙って森彦叔父の鞭韃を受けた。この叔父の癖で、言葉に力が入り過ぎるほど入った。それを聞いていると、お俊は反って不幸な父を憐んだ。

「俊、先刻の物をここへ出せや」

と父に言われて、お俊はホッと息を吐いた。彼女は母を助けて、用意したものを奥の部屋の方へ運んだ。

「さあ、何物もないが、昼飯をやっとくれ」と実は家長らしい調子に返った。

三人の兄弟は一緒に食卓に就いた。口に出さないまでも、実にはそれが別離の食事である。箸を執ってから、森彦も悪い顔は見せなかった。

「むむ、これはナカナカ甘い」と森彦は吸物の出来を賞めて、気忙しなく吸った。

「さ、何卒おかえなすって下さい」と、旧い小泉の家風を思わせるように、お倉は款待した。

皆な笑いながら食った。

間もなく森彦、三吉の二人は兄の家を出た。半町ばかり泥濘の中を歩いて行ったところで、森彦は弟を顧みて、