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いえ
家
島崎 藤村
02 (下)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页
前には埋立地らしい往来がある。正太は家を出て、石段を下りた。朝日が、川の方から、家の前の石垣のところへ映っていた。それを眺めると、母や妹の旅立姿が彼の眼に浮んだ……日頃、女は家を守るものと定めて、めったに屋敷の外へ出たことも無いお種――そういう習慣の人が、自分から思立って上京する気に成ったとは。正太は、あの深い屋根の下にき悶いていた母の生涯を思わずにいられなかった。
塩瀬の店の車に乗って用達に馳廻った後、正太は森彦叔父の旅舎へ立寄り、それから引返して三吉叔父の家の前に車を停めた。丁度三吉は下座敷に居た。叔父の顔を見ると、正太は相場の思惑にすこし手違いを生じたことから、遣繰算段して母を迎える打開話を始めた。
「へえ、お仙ちゃんを連れて? 姉さんも出て来るにはすこし早いナ」
と三吉は首を傾げていた。
「叔父さんもそうお思いでしょう」と正太は不安らしく、「どうも母親さんは……阿爺に逢うのを目的にして出て来る様子です。いろいろ綜合して、私も考えて見ました。いずれこれは、何処かの温泉場へ阿爺を呼寄せて、そこで会見しようという希望が、母親さんに有るらしいんです……どうもそうらしい……唯母親さんが出て来るものとは、どうしても私に思われません」