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いえ
家
島崎 藤村
02 (下)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页
「そうサ。お前は酒も飲まず、煙草も服まず――そこは一寸真似の出来ないところだ」とお種が言った。
「これで何だぞい、俺は旅舎生活を始めてから、唯の二度しか引手茶屋へも遊びに行ったことが無い。それも交際で止むを得ない時ばかり。一度はMさんの出て来た時、一度は――」
「二度と断ったところはよかった」と三吉が笑出した。
「いえ、正直な話サ」
森彦は三吉を睨むようにして言ったが、終には自分でも可笑しく成ったと見えて、反返って笑った。
「姉さん」と森彦はお種の方を見て、「俺はこういう話を覚えているが――貴方達が未だ東京に家を持ってる時分、お仙が二階から転がり落ちて、ヒドク頭を打った――それを貴方達は知らずに寝ていたということだが――」
「そんなことは、虚言だ」とお種は腹立たしげに打消した。
「とにかく、今夜のような話は、為る方が可いネ」と三吉が正太に言った。
「稀にはこういう話も聞かんと不可」正太も元気づいた。
お種は弟を顧みて、「三吉、お前は私のことを……旦那に逢って見る積りで、今度出て来たんだろうなんて、そう言ったそうなネ……」と他事のように言った。
「まあそんな話が出たことも有りました」