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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

「御供しましょう――しかし、一寸まあ上り給えナ」

こう答えて、三吉は甥を下座敷へ通した。

家には客もあった。お雪の父。この老人は遠く国から出掛けて、三吉の家で年越した母と一緒に成りに来た。それほど長く母も逗留していた。

「や、毎度どうも――」

と名倉の老人は正太に挨拶した。気象の壮んなこの人でも、寄る年波ばかりは争われなかった。髯は余程白かった。

二階へ上って、叔父と一緒に茶を飲む頃は、正太は改まってもいなかった。旅から日に焼けて来た叔父の顔を眺めながら、

「時に、叔父さん、吾家の阿爺も……いよいよ満洲の方へ行ったそうです」

こんなことを正太が言出したので、三吉は仕掛けた旅の話を止めた。

「阿爺もネ――」と正太は声を低くして、「ホラ、長らく神戸に居ましたろう。何か神戸でも失敗したらしい。トドのツマリが満洲行と成ったんです……実叔父さんを頼って行ったものらしいんです……実は私も知らずにおりました。昨夕お倉叔母さんが見えまして――あの叔母さんも、お俊ちゃんはお嫁さんに成るし、寂しいもんですから、吾家で一晩泊りましてネ――その時、話が有りました。実叔父さんから手紙で阿爺のことを知らせて寄したそうです……」