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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

お雪は足袋も穿いていなかった。多くの女のように、薄着でもあった。それでも湯上りのあたたかさと、燃えるような身体の熱とで、冷々とした空気を楽しそうに吸った。濡れた町々の屋根は僅かに白い。雪は彼女の足許へも来て溶けた。この快感は、湯気で蒸された眼ばかりでなく、彼女の肌膚の渇をも癒した。

「長い湯だナア」と母は、帰って来たお雪を見て、叱るように言った。

「だって、子供を連れてるんですもの」

こうお雪は答えて置いて、勝手の方へ通り抜けた。

冷い水道の水はお雪を蘇生るようにさせた。彼女は額の汗をも押拭った。箪笥の上には、家のものがかわるがわる行く姿見がある。彼女はその前に立った。細い黄楊の鬢掻を両方の耳の上に差した。濡れて乱れたような髪が、その鏡に映った。

「叔母さん、お湯のお帰り?」

こう正太が、お雪の知らないうちに入って来て、声を掛けた。正太は叔母の後を通過ぎて、楼梯を上った。

「正太さん、よくこの道路の悪いのに、御出掛でしたネ」

と三吉は二階に居て迎えた。

「ええ、叔父さんの許より外に、気を紛らしに行く処も有りませんから」

こう言って、正太は、長い紺色の絹を首に巻付けたまま、叔父の前に坐った。