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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

豊世とお雪は顔を見合せた。

子供の喧嘩する声が起った。それを聞きつけて、お雪は豊世と一緒に階下へ降りた。茶の用意が出来たと言われて、三吉も下座敷へ飲みに来た。

「馬鹿野郎!」

いきなり種夫はそいつを父へ浴せ掛けた。

「種ちゃんは誰をつかまえても『馬鹿野郎』だ」と三吉は子供を見て笑った。「でも、お前の『馬鹿野郎』は可愛らしい『馬鹿野郎』だよ」

「種ちゃんの口癖に成って了いました」とお雪は豊世に言って聞かせた。「御客のある時なぞは、真実に困りますよ」

「豊世さん、煙草はいかが」

と三吉は巻煙草を取出して、女の客や妻の前でウマそうに燻した。

「一本頂きましょうか」と豊世は手を出した。「自分じゃそう吸いたいとも思いませんが、他様が燻していらっしゃると、つい頂きたく成る」

お雪も夫の巻煙草を分けて貰って、左の人差指と中指との間に挾んで吸った。

「あれで宅はどういうものでしょう」と豊世は叔父に、「名古屋へ参ります前なぞは、毎日寝てばかりおりましたよ。叔父さんが寝てるが可いッて仰ったから、俺は寝てるなんて、そんなことを申しまして……」

「正太さんも一時は弱ってましたネ」と三吉は心配らしく、「僕の家なぞへ来てもヒドく元気の無いことがあった」