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いえ
家
島崎 藤村
02 (下)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页
中央線は鉄道工事の最中で、姉の許まで行くには途中一晩泊って、峠を一つ越さなければ成らなかった。それから先には峠の麓から馬車があった。
この旅に、三吉は十二年目で橋本の家を見に行く人であった。故郷の山村へは十四年目で帰る。
三吉を乗せた馬車が、お種の住む町へ近づいたのは、日の暮れる頃であった。深い樹木の間には、ところどころに電燈の光が望まれた。あそこにも、ここにも、と三吉は馬車の上から、町の灯を数えて行った。
馬車は街道に添うて、町の入口で停った。馬丁の吹く喇叭は山の空気に響き渡った。それを聞きつけて、橋本の家のものは高い石垣を降りて来た。幸作も来て迎えた。三吉はこの人達と一緒に、覚えのある石段を幾曲りかして上って行った。古風な門、薬の看板なぞは元のままにある。家へ入ると、高い屋根の下で焚く炉辺の火が、先ず三吉の眼に映った。そこで彼は幸作の妻のお島や下婢に逢った。お仙も奥の方から出て来た。
「姉さんは?」と三吉が聞いた。
「一寸町まで行きました、姉様も一緒に。今小僧を迎えに遣りましたで、直ぐ帰って参りましょう」
こう幸作が相変らず世辞も飾りも無いような調子で答えた。