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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

三吉はすこし煩そうに、「実は、僕は独りで行きたい。それに他の細君なぞを連れて行くのも心配だ」

「心配だと思うなら止すが可いぞや」とお種が言った。

「何でも私は随いてく」と豊世は新座敷の方から。

「じゃ、汽車に乗るところまで送って進げよう」と三吉も引受けた。

いよいよ別れると成れば、余計にお種は眠られない風であった。その晩、姉は奥座敷に休んで弟と一緒に遅くまで話した。姉の様子も気がかりなので、一旦枕に就いた三吉は復た巻煙草を取出した。彼は先ずお仙の話をした。あれまでに養育したは姉が一生の大きな仕事であったと言った。薬の紙を折らせることも静かな手細工を与えたようなもので、自然と好い道を取って来たなどと言った。

「彼女が有るんで、俺も今まで持続えて来たようなものだわい」とお種も寝ながら煙草盆を引寄せた。

新座敷の方に休んだ豊世やお仙は寝沈まっていた。三吉は橋本の家の話に移って、幸作の骨折も思わねば成らぬ、正太には生命がくれてある、何物も幸作にはそんなものがくれて無い、そう神経質な眼で養子や嫁を見るべきものでもあるまい、欠点を言えば正太の方にも有るではないか、などと姉を沈着かせたいばかりに種々並べ始めた。