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いえ
家
島崎 藤村
02 (下)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页
「叔父さん――叔父さん――」
と呼ぶような別れ際の正太のことを胸に浮べながら、三吉は自分の妻子の方へ帰って行った。それは最早六月の初であった。家では、お雪や親戚の娘達が名古屋の方の話を聞こうとして、彼の周囲に集った。
六月九日の夕、三吉は甥の死去したという電報に接した。その夜、火葬に附するともして有った。それを彼はお雪に見せて、互に顔を見合せた。
「今年は私も三十三の厄年です……ひょっとすると今度の御産では、正太さんの後を追うかも知れない……」
心細そうに言って、お雪は二階の戸棚にある写真箱の中から、正太の兜町時代に撮った半身で横向のを探し出して来た。それを亡くなった三人の娘の位牌の前に置いて、燈明も進げた。
「なんだか急にそこいらが寂しく成った」
と三吉も、今更のように家の内を眺め廻した。正太や豊世がかわるがわるやって来て、長火鉢の側でよく話したことは、何となく急に過去に成った。三吉夫婦の周囲には、お俊夫婦、お愛夫婦などの若い一対が幾組も出来たばかりでなく、お福まで、勉と一緒に子供を連れて出て来て、東京に世帯を持つように成った。
その晩は暑苦しい上に、風も無かった。