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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

「でも、房ちゃんは余程姉さんらしく成りましたネ」

と正太は木犀の樹の側を通る時に言った。

この木犀は可成の古い幹で、細長い枝が四方へ延びていた。それを境に、疎な竹の垣を繞らして、三吉の家の庭が形ばかりに区別してある。

「お雪、房ちゃんに薬を服ましたかい」

と三吉は庭から尋ねてみた。正太も縁側のところへ腰掛けた。

「どういうものか、房ちゃんはあんな風なんですよ」とお雪はそこへ来て、娘の方を眺めながら言った。「すこし屋外へ遊びに出たかと思うと、直に帰って来て、ゴロゴロしてます。今も、父さん達のところへ行って見ていらっしゃいッて、私が無理に勧めて遣ったんですよ」

長い労作の後で、三吉も疲れていた。不思議にも彼は休息することが出来なかった。唯疲労に抵抗するような眼付をしながら、甥と一緒に庭へ向いた部屋へ上った。

「正太さん、大屋さんから新茶を貰いました――一つ召上ってみて下さい」

こう言ってお雪が持運んで来た。三吉は、その若葉の香を嗅ぐようなやつを、甥にも勧め、自分でも啜って、仕事の上の話を始めた。彼の話はある露西亜人のことに移って行った。その人のことを書いた本の中に、細君が酸乳というものを製えて、著作で労れた夫に飲ませたというところが有った。