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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

「へえ、勉さんが一緒に来てくれたネ」と三吉が言った。

「商法の方の用事があるからッて、※が途中まで送って来ました」

お雪が勉のことを話す場合には、「福ちゃんの旦那さん」とか、「※」とか言った。なるべく彼女は旧いことを葬ろうとしていた。唯、親戚として話そうとしていた。それを三吉も察しないでは無かった。彼の方でも、唯、親戚として話そうとしていた。

旅の荷物の中からは、お雪が母に造って貰った夏衣の類が出て来た。ある懇意な家から餞別に送られたという円みのある包も出て来た。

まだ客のような顔をして、かしこまっていた下婢は、その包を眺めて、

「※さんがそれを間違えて、『何だ、これは、水瓜なら食え』なんて仰有って、船の中で解いて見ましたッけ……」

「青い花瓶……」

とお雪は笑った。

勉には、三吉も直接に逢っていた。以前彼が名倉の家を訪ねた時に、既に名のり合って、若々しい、才気のある、心の好さそうな商人を知った。

「どれ、御線香を一つ上げて」

とお雪は仏壇の方へ行って、久し振で小さな位牌の前に立った。土産の菓子や果物などを供えて置いて、復た姪の傍へ来た。

「真実にお俊ちゃんも、御迷惑でしたろうねえ――さぞ、東京はお暑かったでしょうねえ――」