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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

雑木林から続いた細道は、コンモリとした杉の木立の辺で尽きて、そこから坂に成った郊外の裏道が左右に連なっている。馬に乗った人なぞがその道を通りつつある。

武蔵野の名残を思わせるような、この静かな郊外の眺望の中にも、よく見れば驚くべき変化が起っていた。植木畠、野菜畠などはドシドシ潰されて了った。土は掘返された。新しい家屋が増えるばかりだ。

三吉はこの草地へ来て眺めた。日のあたった草の中では蟋蟀が鳴いていた。山から下りて来たばかりの頃には、お菊はまだ地方に居る積りで、「房ちゃん、御城址へ花摘りに行きましょう」などと言って、姉妹で手を引き合いながら、父と一緒に遊びに来たものだった。お繁は死に、お菊は死に、お房は死んだ。三吉は、何の為に妻子を連れてこの郊外へ引移って来たか。それを思わずにいられなかった。つくづく彼は努力の為すなきを感じた。

遠い空には綿のような雲が浮んだ。友人の牧野が住む山の方は、定めし最早秋らしく成ったろうと思わせた。三吉は眺め佇立んで、更に長い仕事を始めようと思い立った。

新宿の方角からは、電車の響が唸るように伝わって来る。丁度、彼が寂しい田舎に居た頃、山の上を通る汽車の音を聞いたように、耳を立てて町の電車の響を聞いた。