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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

私共は持って参りました……」

と言って、年長の婦人は寂しそうに笑った。山歩きでもするように、宿から用意して来た握飯がそこへ取出された。肥った女学生は黙って食った。

やがて、三吉はこの人達を城跡の方へ案内した。桑畠の間を通って、鉄道の踏切を越すと、そこに大きな額の掛った門がある。四人は熱い日の映った赤土の崖に添うて、坂道を上った。高い松だの、アカシヤだのの蔭を落している石垣の側へ出た。

どうかすると、連の二人はズンズン先へ歩いて行って了った。曾根は深張の洋傘に日を避けながら、三吉と一緒に連の後を追った。

大きな石を積み上げた古い城跡には、可憐な薔薇の花などが咲乱れていた。荒廃した石段を上って、天主台のところへ出ると、長い傾斜の眺望が四人の眼前に展けた。

三吉はその傾斜の裾の方を指して見せて、林に続く村落の向にはある風景画家の住居もあることなどを語り聞かせた。曾根は眼を細くして、

「私もこうして人の知らない処へでも来ていたらばと思います」

と眺め入りながら沈み萎れた。

松林の間を通して、深い谷の一部も下瞰される。そこから、谷底を流れる千曲川も見える。

夕立を帯びた雲の群は山の方角を指して松林の上を急いだ。