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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

中などを思出していた。お雪は子供を下婢に背負せて置いて、夫の傍へ来た。

「房ちゃん、螽捕りに行きましょう」

と言って、下婢は出て行った。

夫婦は、質素な田舎の風習に慣れて、漬物で茶を飲みながら話した。めずらしくお雪は煙草を燻した。

「何だってそんなに人の顔をジロジロ見るんです」とお雪が笑った。

「でも、煙草なぞをやり出したからサ」こう答えて、三吉もスパスパやった。

「どういうものか、私は普通の身体でなくなると、煙草が燻したくって仕様が有りません」

「してみると、いよいよ本物かナ」

三吉は笑い事では無いと思った。今からこんなに子供が出来て、この上殖えたらどうしようと思った。

それから四五日経って、三吉は兄の実から手紙を受取った。その中には、確かに送ってくれた金を受取ったとして、電報で驚かしたことを気の毒に思うと書いてあったが、家の事情は何一つ知らして寄さなかった。唯、負債ほど苦しい恐しいものは無い、借金する勿れ、という意味が極く簡単に言ってあった。

十一月に入って、復た実は電報を打って寄した。そうそうは三吉も届かないと思った。しかし、弟として、出来得るかぎりの力は尽さなければ成らないような気がした。