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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
「何事も為てくれなくても可いよ」とお雪は鼻を啜り上げて言った。「居眠り居眠り本を読んで何に成る――もう可いから止してお休み――」
唐紙を隔てた次の部屋には、三吉が寂しい洋燈に対って書物を展げていた。北側の雪は消えずにあって、降った上降った上へと積るので、庭の草木は深く埋れている。草屋根の軒から落ちる雫は茶色の氷柱に成って、最早二尺ばかりの長さに垂下っている。夜になると、氷雪の寒さが戸の内までも侵入して来た。時々可恐しい音がして、部屋の柱が凍割れた。
「旦那さん、お先へお休み」
と下婢は唐紙をすこし開けて、そこへ手を突いて言った。やがて彼女は炉辺の方で寝る仕度をしたが、三吉の耳に歔泣の音が聞えた。一方へ向いては貧乏と戦わねばならぬ、一方へ向いては烈しい気候とも戦わねばならぬ――こういう中で女子供の泣声を聞くのは、寂しかった。三吉は綿の入ったもので膝を包んで、独りで遅くまで机の前に坐っていた。
三吉が床に就く頃、子供は復た泣出した。柱時計が十二時を打つ頃に成っても、未だお房は眠らなかった。
お雪は気を焦って、
「誰だ、そんなに泣くのは……其方行け……あんまり種々な物を食べたがるからそうだ……めッ」