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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

それよりは皆なの意見を容れて今しばらく伊東に滞在しておれ、とある。不思議だ、不思議だと、お種が思い続けたことは、漸く端緒だけ呑込めることが出来るように成った。しかし、彼女の気質を知る者は、誰一人として家の模様をあからさまに告げて寄すものが無かった。

何にも達雄からは音沙汰が無い……苦しいことが有れば有るように、せめて妻の許だけへは家出をした先からでも便りが有りそうなもの、とこうお種は夫の心を頼んでいた。また一月待った。

橋本の若夫婦――正太、豊世の二人は、母のことを心配して、便船に乗って来た。

この人達を宿の二階に迎えた時のお種の心地は、丁度吾子を乗せた救い舟にでも遭遇ったようで、破船同様の母には何から尋ねて可いか解らなかった。

忰や嫁の顔を見ると、お種も力を得た。彼女はすこし元気づいたような調子で、自分の落胆していることを若いものに見せまいとする風であった。

「お前達は子が無いで――こういう温泉地へ子でも造りに来たかい」

と言われて、正太と豊世とは暫時顔を見合せた。

「母親さん、そこどころじゃ有りませんよ……」

と豊世が愁わしげに言出した。

正太はこの話を遮って、妻にも入浴させ、自分でも旅の疲労を忘れようとした。