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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

「では、母親さん、こういうことにしましょう。私にもどうして可いか解りませんからネ、森彦叔父さんに一つ指図して頂きましょう……森彦叔父さんが居た方が可いと仰ったら、居ましょう」

豊世はこんな風に言出した。

森彦からは返事が来た。それには豊世の願った通りのことが書いてあった。豊世は早く上京して前途の方針を定めよとあるし、姉は今しばらく伊東で静養するように、そのうちには自分も訪ねて行くとしてあった。

二月の末に成って、漸く豊世は姑の側を離れて行くことに決めた。

「もうすこし、お前に居て貰いたいよ。私独りに成って御覧、どんなに心細いか知れない」とお種は萎れた。

「ええ、私もこうして居たいんですけれど……居られるものなら、一日でも余計……」

こう言いながら、嫁はサッサと着物を着更えた。旅の手荷物もそこそこに取纏めた。

船までは、林の隠居や細君が一緒に見送りたいと言出した。お種はこの人達に励まされながら豊世と連立って、宿を出た。まだ朝のことで、湯の流れる川について、古風な町々を通過ぎると、やがて国府津通いの汽船の形が眼に見えるところへ出て来た。船頭は艀の用意をしていた。