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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

残酷なほど正直な鏡の中には、最早凋落し尽くした女が映っていた。肉が衰えては、節操も無意味で有るかのように……

頬の紅いお房の笑顔が、伯母の背後から、鏡の中へ入って来た。

「房ちゃん、お前さんにもお化粧して進げましょう――オオ、オオ、お湯に入って好い色に成った」

と言われて、お房は日に焼けた子供らしい顔を伯母の方へ突出した。

やがてお種はお房を連れて、お雪の居る方へ行った。お雪も自分で束髪を直しているところであった。

「母さん」とお房は真白に塗られた頬を寄せて見せる。

「へえ、母さん、見てやって下さい――こんなに奇麗に成りましたよ」とお種が笑った。

「まあ……」とお雪も笑わずにいられなかった。「房ちゃんは色が黒いから、真実に可笑しい」

暫時、お種はそこに立って、お雪の方を眺めていたが、終に堪え切れなくなったという風で、こう言出した。

「お雪さん、そんな田舎臭い束髪を……どれ、貸して見さっせ……私は豊世のを見て来たで、一つ東京風に結ってみて進げるに」

お房は大きな口を開きながら、家の中を歌って歩いた。

南の障子に近いところは、お雪が針仕事を展げる場所である。お種はお雪と相対に坐って、余念もなく秋の仕度の手伝いをした。