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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
その電報が行くと直ぐ三吉も出て来る手筈に成っていた。
「宗蔵は暫時稲垣さんの方へ行っておれや」
と兄に言われて、宗蔵も不承々々に自分の部屋を離れた。彼は、不自由な脚を引摺りながら、稲垣の家の方へ移されて行った。
婚礼の日は、朝早く実も起きて庭の隅々まで掃除した。家の内も奇麗に取片付けた。奥座敷に並べてある諸道具は、丁寧に鳥毛の塵払をかけて、机の上から箪笥茶戸棚まで、自分の気に入ったように飾ってみた。火鉢の周囲には座蒲団を置いた。煙草盆、巻煙草入、灰皿なども用意した。こうして、独りで茶を入れて、香の薫に満ちた室内を眺め廻した時は、名倉の家の人達が何時来て見ても好いと思った。床の間に飾った孔雀の羽の色彩は殊に彼の心を歓ばせた。
弟の森彦からも、三吉の結婚を祝って来た。その手紙には、自分は今旅舎住居の境遇であるから、式に出ることだけは見合せる、万事兄上の方で宜敷、三吉にも宜敷、としてあった。
「貴方、俊の下駄を買って来ました――見てやって下さい」
こう言って、お倉は娘と一緒に買物から帰って来た。
「どれ、見せろ」と実は高い表付の赤く塗った下駄を引取った。「こんな下駄を穿かして、式に連れて行かれるものか。