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かれい
家霊
岡本 かの子
在线阅读岡本 かの子《家霊(かれい)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,395 字 · 19 页
山の手の高台で電車の交叉点になっている十字路がある。十字路の間からまた一筋細く岐れ出て下町への谷に向く坂道がある。坂道の途中に八幡宮の境内と向い合って名物のどじょう店がある。拭き磨いた千本格子の真中に入口を開けて古い暖簾が懸けてある。暖簾にはお家流の文字で白く「いのち」と染め出してある。
どじょう、鯰、鼈、河豚、夏はさらし鯨――この種の食品は身体の精分になるということから、昔この店の創始者が素晴らしい思い付きの積りで店名を「いのち」とつけた。その当時はそれも目新らしかったのだろうが、中程の数十年間は極めて凡庸な文字になって誰も興味をひくものはない。ただそれ等の食品に就てこの店は独特な料理方をするのと、値段が廉いのとで客はいつも絶えなかった。
今から四五年まえである。「いのち」という文字には何か不安に対する魅力や虚無から出立する冒険や、黎明に対しての執拗な追求性――こういったものと結び付けて考える浪曼的な時代があった。そこでこの店頭の洗い晒された暖簾の文字も何十年来の煤を払って、界隈の現代青年に何か即興的にもしろ、一つのショックを与えるようになった。