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ふじ
富士
岡本 かの子
「文芸」1940(昭和15)年11月号~1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,579 字 · 82 页
女神が捧げものを徹して持ち帰る姿が望まれた。
翁は堪られなくなって声をかけた。
「娘よ。福慈神よ」
それは始めから哀訴の声音だった。
女神の片眉が潜められたが声は美しく徹っていた。
「あら、まだ、そこにいらっしゃいますの。お寒いのに、なぜ、おとり申上げた村里の宿へお出でになりませんの」
翁は頑是ない子供が、てれながら駄々を捏ねるように、掌に拳を突き当てつつ俯向き勝ちにいった。
「寂しいんだよ」
「では、どうして差上げたらよろしいのでございましょう」
「どんな端っこでもいい、おまえの家へ泊めとくれよ」
翁の声は小さかったが強訴の響は籠っていた。「おまえの居ると同じ屋の棟の下にいれば気が済むのだから、決して祭りの邪魔はしないのだから」
「それが、おさせ申上られないことは、お出でにすぐ申上げたではございませんか。無理を仰しゃっては困りますわ」
娘の声は美しく徹ったまま、山が頂より麓へ土を揺り据えたように、どっしりとした重味が添わって来た。その気勢に圧せられた翁は、却ってあらがう気持を二つ弾のような言葉で、あと先立て続けに女神へ向けて放った。
「情のこわい女だぞ」「何をまだ、この上、親を断っても修業の祭をしようというのだ。