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かんのうめ

寒の梅

宮本 百合子

「文芸」1939(昭和14)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,819 字 · 8 页

青空文庫

いよいよ明日かえると思うと何だか落付かない。誰がうちに待っているというでもないのに。それでも落付かない心。そういう心。ベッドをおりて手紙をかく。

一月○日

午後二時頃、バラさんと寿江子の間に挾まれて、スーツ・ケイスなど足もとにつめこんで自動車で帰宅。茶の間の敷居に立って久しぶりの部屋を見まわす。真白な天井や壁ばかり見ていたので、障子のこまかい棧、長押、襖の枠、茶だんす、新しい畳のへりなど、茶色や黒い線が、かすかに西日を受ける部屋の中で物珍しく輻輳した感じでいちどきに目に映った。火鉢のわきにいつもの場処にさて、と坐る。どうもいろいろ御苦労さま。バラさん、寿江子にそう云うと、私はもう否応なく主で、病院にいた間とはすっかりちがい、ひとまかせにしていられない生活の顔がもう其処に在る。庭にあんまり霜柱が立って八つ手や青木がしもげているのにおどろいた。うちの水道はこの頃殆ど毎日凍っている由。

うちが急に寒い。「わが家だからスウィートなんだろうけれど、こう寒くちゃアイスクリームだね」と笑う。笑いながら、心はなかなか激しく求めるものがあった。

一月○日

毎日風がひどい、ちっとも雨が降らず。