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かんのうめ
寒の梅
宮本 百合子
「文芸」1939(昭和14)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,819 字 · 8 页
二階で臥たり、読んだり。栄さん結婚十五年というので、何婚式になるんだろうと当用日記のうしろを見たら、これまで生れ月の宝石だの結婚記念などのあった欄が、すっかり「ス・フの知識」に変っていた。
○ キュリー夫人伝の話が出る。確に近頃では興味深く且つ感動的な本であった。あの本やパストゥールの「科学者の道」の映画がああいう感動をもって一般に受けいれられるという事実は複雑な時代の感情をも語っていることだ。キュリー夫人が、夏どこかの田舎へ行っていたとき、素足で砂のところで休んでいると、そこを記者が見つけて、いろんなことを訊きはじめる。するとキュリー夫人が「科学は事に関しているのであって人に関していることでない」という意味の答をする。私にはあの一句がどうも忘られない。彼女のような廉直なひとに、彌次馬的なわいわい騒ぎや、女だということについての物見高さや、俄な尊敬、阿諛がうんざりであったこと、その気分からそういう形に要約された言葉の出たこともわかる。けれども、エーヴの筆がやはりその限界にとどまっていることはおしいと思う。もしほんとに科学は人間に関しないのであるならば、どうしてキュリー夫人は、ラジウムの権利を独占して儲けようとせず、ひろく全世界の人間の幸福のためにと開放したろう。