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てらだせんせいのついおく
寺田先生の追憶
中谷 宇吉郎
――大学卒業前後の思い出――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,152 字 · 26 页
時々法科方面の友達などがやって来て「君たちはいいな、僕の方は三百人も一緒に大講堂で大急ぎにノートを取るだけだから、とてもこういう感じは出ないよ」などと羨しがるもので、益々いい気になっていた。そしてもう会社へはいって金を儲けてなどという考えは、いつの間にかけろりと忘れてしまっていた。
一学期も経って、そろそろ一同の装置が揃って来ると、部屋は益々窮屈になって来た。無理遣に小さい実験台をいくつか押し込んで、三つの実験がやっと同時にやれるようになったのであるが、椅子などは邪魔になってしようがない。それで皆小さい円い木の腰掛にとりかえてしまうという騒ぎであった。
先生は毎日のように午後になるとちょっと顔を出された。そしてその小さい腰かけにちょこんと腰を下して、悠々と朝日をふかしながら、雑然たる三つの実験台を等分に眺めながら、御機嫌であった。
その頃は丁度『藪柑子集』や『冬彦集』が初めて世に出た時代で、先生の頭の中に永らく蓄積されていたものが、急にはけ口を得て迸り出始めたような感じを周囲に与えておられた。研究の方も同様であって、三年間かの病床及療養の間に先生の頭の中で醗酵した色々の創意が、生のままの姿でいくらでも後から後からとわれわれの前に並べられた。