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てらだとらひこのついそう

寺田寅彦の追想

中谷 宇吉郎

「寺田寅彦の追想」甲文社、1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,683 字 · 40 页

青空文庫

やっとおさまって気が付いてみたら、誰も他のお客がいなくてね、皆機敏に逃げ出しているのさ。ボーイもいないので、やっと呼び返して金を払って帰ったが、あのボーイはきっと間抜けた爺いだと思っていただろうね」という話なのである。先生には生命の危惧よりも、家屋の振動状態の方がもっと関心事だったのである。地震に対する恐怖などというものは、感覚的なものであるが、先生の自然現象に対する興味は、感覚の域にまで達していたのであろう。

震災で物理の本館は半壊の状態になった。その中の小さい実験室で、私より一年先輩の人が二人、妙な実験をしていた。細長いU字管に空気と水素とを混ぜて入れて、それに火を点けて爆発させる実験である。もっとも爆発といっても点火限界に近い混合割合なので、燃焼と言うべきのものであった。そのうちの一人湯本君は、高等学校の先輩で、前から親しくしていたので、時々其処へ遊びがてら「見物」に出かけた。湯本君の話によると、これは寺田先生の研究の一部であって、卒業実験としてやっているのだということであった。先生はこの前年海軍から航空船の事故防止の研究を委託されていたので、その基礎資料を得るために、水素の不完全燃焼の模様を調べておられたのである。