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からすうりのはなとが
寺田寅彦随筆集 第三巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第三巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:からすうりの花と蛾、火山の名について、日常身辺の物理的諸問題、量的と質的と統計的と、物理学圏外の物理的現象、ロプ・ノールその他、青衣童女像、カメラをさげて、連句雑俎、ラジオ・モンタージュ、青磁のモンタージュ、読書の今昔、映画の世界像、「手首」の問題、映画雑感(Ⅰ)、生ける人形、映画芸術、音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」、俳諧の本質的概論、夏目漱石先生の追憶、田丸先生の追憶。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 213,804 字 · 425 页
これは写真としてはリリュストラシオンのさし絵で見た事はあったが、これが映画になったのはおそらく今度が始めてであり、ことに発声映画としてはこれがレコードであるにちがいない。蝗の羽音がどれだけ忠実に再現されているかは明らかでないがともかくも不思議な音である。聞いたことのないものには想像することのできない音である。いくらか似た音を求めれば、製材所の丸鋸で材木を引き割るあの音ぐらいなものであろう。先年小田原の浜べで大波の日にヘルムホルツの共鳴器を耳に当て波音の分析を試みたことがあったが、かなりピッチの高い共鳴器で聞くとチリチリチリといったように一秒間に十回二十回ぐらいの割合で断続する轢音が聞こえる、それがいくらかこの蝗群の羽音に似通っているのである。やはり、音の生成機巧に共通なところがあるからであろう。すなわち、浜べで無数の砂利が相打ち相きしるように無数の蝗の羽根が轢音を発している、その集団的効果があのように聞こえるのではないかと思われる。そういえば丸鋸で材木をひく時にもこれに似た不規則な轢音の急速な断続があるのである。
この蝗の羽音は何を語るか。蝗は何を目的として何物に導かれてどこからどこへ移動するか。