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あひるとさる

寺田寅彦随筆集 第五巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第五巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あひると猿、疑問と空想、映画と生理、映画雑感(Ⅲ)、映画雑感(Ⅳ)、災難雑考、三斜晶系、糸車、詩と官能、自由画稿、小浅間、小爆発二件、地図をながめて、天災と国防、日本人の自然観、破片、俳句の型式とその進化、俳句の精神、物売りの声、B教授の死。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,515 字 · 389 页

青空文庫

塚本閤治氏撮影の小型映画を見た時の話である。たしか富士吉田町の火祭りの光景を写したものの中に祭礼の太鼓をたたく場面がある。そのとき、もちろん無声映画であるのにかかわらず、不思議なことには、画面に写し出された太鼓のばちの打撃に応じて太鼓の音がはっきり耳に聞こえるような気がした。よく注意してみると、窓の外の街上を走る電車の騒音の中に含まれているどんどんというような音を自分の耳が抽出し拾い上げて、それを眼前の視像の中に都合よく投げ込んでいたものらしい。

同様に笛を吹く場面でもかすかに笛の音らしいものが聞かれた。これは映写機のモーターの唸音の中から格好な楽音だけをわれわれの耳に特有な抽出作用によって選び出し、そうして視覚から来る連想の誘引に応じてスクリーンの上に投射したものらしい。

最近にはまた上記のものとは種類のちがった珍しい錯覚を経験した。それはこうである。ベルクナー主演の「女の心」(原名アリアーネ)の一場面で食卓の上にすみれの花を満載した容器が置いてある、それをアリアーネが鼻をおっつけて香をかいだりいじり回したりするのであるが、はじめは自分にはそれがなんだかよくわからなくて、葡萄でも盛ったくだもの鉢かと思っていた。