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ちいさきなにも

小さき花にも

豊島 与志雄

「光」1948(昭和23)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,115 字 · 21 页

青空文庫

お寺の銀杏樹がくっきりと姿を現わし、その重畳した緑葉の一枚一枚が、浮き上って、その中に、雀がもう囀りだした。声は声を呼んで、チイチク、チュクチュク、チイチク、チュクチュク、潮のように高まってくる。もっと鳴け、もっと鳴け。雀、雀、お前たちも童貞処女ではないか。胸の張り裂けるほど……。

ああ、私は思念の息の根をとめた。雀が、あの鳴き騒いでる雀のすべてが、なんで童貞処女なものか。童貞処女は今年生れの小雀だけだ。それと親雀と、どうして区別出来よう。肉体、肉体そのものの心だ。

大空に光りが、日の出の紅い光りではなく、盲いたようなただ白い光りが、いつしか漲って、その反映で物影が消えていった。私は眩暈に似たものを感じた。家にはいって、頭痛がすると母に言った。昨晩遅くなって、風邪をひいたのかも知れない、という口実で、布団にもぐりこんでしまった。手塚さんを駅まで見送りに行くことになっていたが、誰が行くものか。姉さんだけ行くがいい。首縊りのキスのお伴なんか御免だ。

私は夢をみてるような気持ちで、それからほんとにうとうと眠ったらしい。眼がさめると、涙が出ていた。

お母さんは、もう裏口で洗濯をしている。