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ちいさきなにも

小さき花にも

豊島 与志雄

「光」1948(昭和23)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,115 字 · 21 页

青空文庫

お父さんは、縁側でぽかんとしている。中風といっても、手足や言葉が自由にならない程度の軽いもので、ただひどく泣き上戸だ。

私は顔を洗い、泣いたらしい眼をよく洗って、さっと髪をなでつけ、お父さんのところへ行ってみた。

「おう、おう、起きたか。」

私は笑顔をした。

「よかった。風邪が、なおったか。」

お父さんはもう泣いている。

「淋しかろ。手塚さんが、いってしまった。がまんしな。」

お父さんて、何を言うんだろう。お父さんこそ、むかしは、工場の庶務課で、手塚さんの父親と同僚だったし、手塚さんを好きだったんじゃないか。

「わたしじゃないわ。お父さんが淋しいんでしょう。」

お父さんは頷いて、鼻をすすった。

「姉さんも、きっと淋しいわ。」と私は言ってみた。

お父さんはまた頷いて、しくしく泣きだした。何を考えてるのか、ちっとも分らない。嬉しくて泣くのか、悲しくて泣くのか、それさえも分らない。

横手のかなたに見える銀杏樹には、雀の声がもうしなかった。一群れずつ、ぱっぱっと四散して、どこかへ行ってしまったのであろう。

「あら、もう雀がいなくなったわ。すっかり明るくなったから、どこかへ出かけてしまった。