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ちいさなやぎのきろく
小さな山羊の記録
「作品 第四号」1949(昭和24)年10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,402 字 · 19 页
原稿紙はかさばって重いからだが、ノートブックという新しい方法によって、思いがけなく仕事ができるかも知れないという淡い希望もあった。私は二十一の年にひどい神経衰弱になり、歩行もサンマンとし、耳がきこえなくなった。それは、私に常に妄想が起るために、耳がきこえなくなるのであったが、要するに妄想を抑えることに成功すれば、必ず病気を治すことができるという見込みによって、目覚めているあらゆる時間、語学に没頭することにした。つまり、辞書をひきつゞけるのだ。私は、フランス語、サンスクリット、パーリ語、ドイツ語を一時に習い、たゞ、むやみに、辞書をひく機械のように、根かぎり、休むことなく、辞書をひくことに没頭した。そのほかに、何を考えてもいけないのだ。考えてはならぬ。考えてはならぬ。然し、こうして明滅する妄想と闘いつゝ辞書をひいても、凡そ平時の十分の一と能率はあがらぬものだが、ともかく、この方法によって、妄想をくいとめ、一年半ほどの後には、以前の自分に戻ることができた。
そのころ、つまり、どうやら妄想を抑えつけることに成功して、もとの自分に戻ったころだが、私は、はじめて、小説を書いた。