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しょうせつちゅうのおんな

小説中の女

豊島 与志雄

「サンデー毎日」1923(大正12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,887 字 · 16 页

青空文庫

ただ真直な鼻であることだけで沢山だった。――頬の工合は、全くみさ子そっくりだった。肉附が薄くて、興奮したら益々蒼ざめてゆきそうな頬、一人で思い耽っていて、微笑の影のさすことがない頬だった。その蒼白い皮膚の下には、或る神経質なものが漂っていた。みさ子はどんな姿態をしても、またどんな夢想の折にも、時々多くの女がなすように指先で軽く頬を支えることがなかった。またその頬へ、決して接吻を許さなかった。或る小さな新劇団にはいっていた頃、有名な劇作家が酒の上の戯れで、その頬に接吻しようとした時、口ならいいけれど頬辺はいやと答えたのは、今でもその方面の話柄に残っていた。――彼女の口元から※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)も、みさ子に丁度ふさわしかった。心持ちしゃくれながら長めに尖ってる※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)と、きっと結んだ冷たそうな唇とに、何かしら堅固な意志表示が見えていた。少し皺のある歪みがあるその唇は、歯並の悪さを想像させた。みさ子は或る時恋人の大学生と郊外散歩に行き、子供らしくはしゃぎ出して、歩きながら林檎を皮のまま噛った。噛り取った林檎に、凸凹の小さな前歯の跡がついた、まではよかったが、林檎の皮が歯の間に方々はさまって、恋人の持ってるマッチの棒を楊枝に使っても、どうしても取りきれないで、