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しょうせつしゅう「しんのゆうしゅう」こうき

小説集「秦の憂愁」後記

豊島 与志雄

「秦の憂愁」東京出版、1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 687 字 · 2 页

青空文庫

戦乱の期間中、私は幾度か中華民国に旅して、おもに上海に滞留した。そして彼地の有力な精神の代表者の一人として、秦啓源を捉えた。その生活や思想や人柄に、或は逆に私の方が捉えられたのかも知れない。――この秦啓源のことを、私はだいたい本書の作品のなかで述べた。

戦後の激発期に、東京では実にさまざまな精神動向が見られた。その精神動向の代表的なものの一つとして、私は波多野洋介を捉えた。その思想や人柄に、或は逆に私の方が捉えられたのかも知れない。――この波多野洋介のことを、私はだいたい本書の作品のなかで述べた。

斯くして、この短篇集のなかには、二人の主要人物が浮きだしてくる。一人は中国人であり、一人は日本人であるが、共に、動乱期の苦悩を通りこし、周囲に反撥して新たな生活を志向している。この意味で、初めはそうでもなかったのだが、いつしか、私自身にとって非常に親しい人物、謂わば他人とは思えない存在となってしまった。この二人に対して私は愛着を持つ。

この二人が、たまたま東京で出会って親しくなり、ささやかな仕事を始めることになった。それからまだ日も浅く、どんなことになるか分らない。