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こさかいさんのことども

小酒井さんのことども

国枝 史郎

「猟奇」1929(昭和4)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,517 字 · 5 页

青空文庫

来ると、何時も文学の話ばかりで、それが小酒井さんには楽みであったようでした。他にそういう話をする人が名古屋に無かったからだろうと思われます。

小酒井さんは身に備わっている威厳を、わざと自身でぶち壊そうと心掛けるような所がありました。しかし夫れは失敗に終わり、いつも威厳が保たれていました。実に壊わしても壊わしても壊わし切れない頑丈な威厳を持っていました。

小酒井さんは場所慣れた人であり、何人にも臆めない人であり、どのような環境にも融合することの出来る人でした。

小酒井さんは三十分でも一時間でも人の話を聞いて、自分では黙っていることの出来る人でした。それで少しも小酒井さんの影が薄くもならず、いや却って小酒井さんという人の印象を強く人に与え、尊敬を招く人でした。

知ったか振りをしないばかりか、一切のことに小酒井さんは見得を張りませんでした。余程の修養が出来ていなければこういうことは仲々出来ないのだと私などには思われました。

衆と共に仕事をされる場合には小酒井さんは身を以って率いました。ですから自然と衆人が小酒井さんを頭目の位置に据えて了いました。

私に断然禁酒をすすめたのは小酒井さんでした。