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こさかいさんのことども
小酒井さんのことども
国枝 史郎
「猟奇」1929(昭和4)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,517 字 · 5 页
小酒井さんが長逝されました。私はボンヤリしています。同じ名古屋に住んでいたため特に親交があったからです。
医学者として大家であり、探偵文学者として一流であったことは世間周知のことと思いますが、私の知っている幾人かの実業家は小酒井さんのことをこのように申して居りました。
「小酒井さんは大事業家の素質を持っています。あの人が病身だということは如何にも残念です。健康でさえあったら実業の方面でも大事業をされるのですに」と。
小酒井さんは、ひそかに或る土地会社式、乃至は宝塚式の大娯楽場設立の計画をされていたようです。或時その片鱗を私にも洩らされ「いよいよその時には貴郎にも是非」とこのように云われました。五六十万円ぐらいの計画のようでした。
そこで私は思った事がありました。
「小酒井さんが夭逝しなかったら、医学界では、自宅に設けてある研究所から多くの博士を出して一大王国をつくり、探偵文学方面では、息をかけた人を多く造って一大王国をつくり、実業方面では前記の計画を完成してこれ又一大王国をつくったことであろう」と。
小酒井さんが私の家へ来られた度数と、私が小酒井さんの家をお訪ねした度数とを比較しましたなら、小酒井さんが私の家へ来られた度数の方が多かったように思われます。