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こさかいさんのことども
小酒井さんのことども
国枝 史郎
「猟奇」1929(昭和4)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,517 字 · 5 页
すると小酒井さんは直ぐに快諾された上、その手続きをする事を非常によいからと云って進められました。
しかしその時小酒井さんは云われました。「喜んで私は保証人になりますが、しかし貴郎よりも先に私の方がこの世へお暇を告げますよ」と。
私はまさかと思いましたが、遂に小酒井さんの言葉が真実になりました。
悲いことです。
私が、生前の小酒井さんと逢ったのは、本年一月の耽綺社の例会が最後でした。その時私は禁酒したのと旅から急いで帰って来たのとでションボリしていた筈です。私のションボリ振りが会員の人達に眼立ったと見えて、その後土師清二氏からも長谷川伸氏からも「国枝よ。あんまりションボリし過ぎる。大酒は不可ないが少しは酒をやった方がいい」という手紙が来たくらいでした。しかし私はその手紙を見て思ったことです。「禁酒したためションボリしたのは事実だが、実はあの時小酒井さんが私の正面に坐わっていて絶えずチラチラと私の顔を見て、私が盃へ手をやるか何うかと心配そうにしていられた。その小酒井さんの心配そうな顔に対しても、盃を取ることが出来ず、又、実際よりも一層ションボリした風を見せなければならなかったのだよ」