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しょうじょじごく

少女地獄

夢野 久作

「少女地獄」黒白書房、1936(昭和11)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,174 字 · 206 页

青空文庫

両親には風邪気味と申しましたので、夕方になって、近所に住んでおられる大学の助教授さんとか言う、若いお医者さんを呼んでくれましたが、別に何処と言って悪い処は御座いませんし、熱も何もなくて、脈も変っていなかったので御座いましょう。お医者様はしきりに不思議がって、首を傾げておられました。そうして私の左手からすこしばかり血を取ってお帰りになりましたが、あの血の一滴が、校長先生と私とをコンナ破目に陥れる重要な血だった事を、あの時の混乱していた私が、どうして気付き得ましょう。

その次の次の朝……あれから四日目の朝早くでした。私はやっと、平常に近い静かな気持になって眼を醒ます事が出来ました。それは前の晩に若いお医者様から頂いた睡眠薬のお蔭だったのでしょう。私は寝間着のままお庭に出て、ユーカリの樹の梢に輝く青い青い朝の空を、ゆっくりと見上げる事が出来ました。

けれども、その時の私の悲しゅう御座いましたこと……。

校長先生。私は人から何と言われても、やっぱり女だったのです。

それが道ならぬ、忌わしい事と知りつつも私は、校長先生をお怨み申し上げる気持に、どうしてもなり得なかったのでした。