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しょうじょじごく

少女地獄

夢野 久作

「少女地獄」黒白書房、1936(昭和11)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,174 字 · 206 页

青空文庫

彼女の郷里は青森県の酒造家で、裕福な家らしく聞いていたが、その後の彼女の朗らかな性格や、無邪気な態度を透して、そうした事実を私等は毛頭疑わなかった。

一番最初の問答に出た彼女の兄なる人物は、彼女が来てから間もなく倉屋の黒羊羹を沢山に持って病院に挨拶に来た。もっともそれは私が帰宅したアトの事で、誰もその兄の姿を見届けたものはいなかったが、ちょうど私が自宅で夕食を終ってから、何かしらデザートじみた物が欲しいと思っているところへ、病院の姫草ユリ子から取次電話がかかって来た。

「先生。只今兄がお礼に参りましたの。先生がお好きって妾が申しましたからってね、倉屋の羊羹を持って参りましたの……イイエ。もう帰りましたの。折角お休息のところをお妨げしてはいけないってね。どうぞどうぞこの後とも宜しくってね……申しまして……ホホ。そちらへお届け致しましょうか……羊羹は……」

「ウン大急ぎで届けてくれ。ありがとう」

と返事をしたが、恐らく甘く見られたと言ってもこの時ぐらい甘く見られた事はなかったろう。

彼女の郷里からと言って五升の清酒と一樽の奈良漬が到着したのは、やはり、それから間もなくの事であった。