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やまだちもんどう

山だち問答

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,163 字 · 32 页

青空文庫

小雪はここでも世評が人を殺そうとしていると思い、どうか玄一郎だけはそんな世評に負けないで欲しい、小雪のように自分を失わないで呉れるように本当に心から祈ったと云った。だが悪評はなかなか歇まず、縁談はやぶれるし、家士、下郎までが反き去ったと聞いた。

「わたくし、息が詰るように思いました」と、小雪は苦しげに声をおとして云った、「……郡さまがどんな気持でいらっしゃるか、自分でその苦しみを味わったわたくしにはよくわかります、その苦しみを知っている小雪なら、いって郡さまの、心の支えになってさしあげることができる、そう考えましたとき、佐田権太夫さまがみえて、あなたとの問答を父に話すのを伺いました、武士の約束に相手の差別はない、たとえ山だちの強盗なりとも約束した以上その約束を守るのが武士の義理だ、……そう仰しゃったと伺って心がきまりました、このようにおりっぱな方を無責任な悪評で殺してしまってはならない、お側へあがって心の支えになってさしあげなければ、そして、わたくし父に願いました、侍女だと偽わったのは素性を隠すという父との約束ですけれど、そうしなければお側へあがることができなかったからでございます」