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やまだちもんどう
山だち問答
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,163 字 · 32 页
侍女は「はい」と答えたが、どしゃ降りの空を見あげて、ちょっと足が出せないようすだった。娘はまったく無関心に、「なにをしているの」と促す、侍女は思いきったように両方の袖を頭の上へ重ねてとびだそうとした。玄一郎は見かねて、「ちょっとお待ち」と呼びかけ、着ていた羽折をぬいで侍女の手へ投げ与えた。
「それを冠っておいで、幾らか凌ぎにはなるだろう、いや遠慮はいらない持っておいで」
「では……」と、侍女はなにか云おうとしたが、殴りつけるような雨なので、軽く会釈をするとそのまま、羽折を頭から冠って駈けだしていった。
娘は初めてこちらを見た。こんどは玄一郎がすばやく顔をそむけた、それでもなにか云いかけそうなそぶりだったので、彼はくるっと踵を返して山門の裏がわへ来た。意地を張る積りではなく、話しかけられるのがうるさかったのである、……するとそのとき昌光寺の庫裡のほうから、寺の印のある傘をさした一人の若侍が出て来て、向うから玄一郎に声をかけた、それは、彼と同じ書院番を勤める矢内又作という同僚だった。
「雨宿りかね、こう激しくては雨宿りも風流とはいえないな」
又作はそう云いながら近寄って来た、「……こいつはなかなかやみそうにもない、どうせ途中だから家まで送っていこう、入らないか」