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やまとむら
山と村
木暮 理太郎
「山」1934(昭和9)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,705 字 · 10 页
石段の前を少し西に下った窪地には、井戸もあれば又太郎坊(日の池)次郎坊(月の池)と称する大小二つの池もあって、水に不足することはない。城が廃された頃であろう、或男が太郎坊の鯉を盗んで次郎坊の側を通りかかると、其鯉が次郎坊と呼んだ、すると池の面に大きな緋鯉が浮び上り、太郎坊と答えたので、其男は鯉を池に投げ込み、跡をも見ずに逃げ帰ったそうである。其話を聞かされてから、竹藪に埋れて青い色をしている池の傍を通るのは、子供心に薄気味悪く感じた。此頂上に立って西北を望むと、くろほの嶺呂と『万葉集』に歌われた黒檜山以下の六峰から裾野のはてかけて、一眸の中に展開するので、成程これはと首肯されることと思う。
主脈から西南に延びた一支に高さ百五十米の浅間山がある。西から眺めた形が富士に似ているばかりでなく、平地からは白山岳の一角しか望めないのに、此山頂からは丁度秩父の浅間峠の上に九合目以上の富士の姿が浮び出るので、浅間神社が勧請されている。或年の秋祭に、此山の麓の田を少し早めに刈取って満々と水を湛え、一大湖水となし、沖の方に赤旗を建て赤い幕を張った十数艘の兵船を浮べ、水際から一町許り離れた波間に、緋縅の鎧を着た馬上の敦盛、登山口の鳥居の傍に紺糸縅の鎧に紅の母衣をかけ、栗毛の馬に跨り扇を揚げている熊谷、山の五合目の中社の庭