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やまのかみさつじん

山の神殺人

坂口 安吾

「講談倶楽部 第五巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,014 字 · 21 页

青空文庫

知らない人がきくとただおだやかな言葉のようだが、知る人がきけばそれだけではない。なぜなら、平作の言葉の様子ではまるで二十前後の不良少年を勘当する話のようにうけとれるが、実は不二男は当年三十三にもなっている。

平作は今の女房に頭があがらないから、先妻の子の不二男にやさしい言葉をかけてやったこともない。不二男は少年時代からまるで作男のように扱われて育った。戦争がなければもっと早くグレてとっくに家出でもしていたろうに、いわば戦争に救われたとでも云うべきか、勇躍出征した。兵隊、戦争の生活は彼にとってはむしろはじめての青春時代であったのである。

終戦後、グレはじめた。相変らず父の作男のような生活ながら、ヤミをやり、ヤミの仲間と時にはよからぬカセギをもくろむようなこともあって、警察沙汰になることが重なったのである。

その度に被害を蒙るのは平作で、示談だと云って金をとられ、ヤミでは自分の作物を盗んで売られ、重ね重ねの損失の上に肩身のせまい思いをしなければならぬ。けれども世間は平作に同情どころか、

「ノータリンの作男でもタダで雇えやしまいし、一人前に成人した長男にヨメもとらせずタダを幸いコキ使うから、こうなるのさ」